“縁結びの神様”は、元いじめられっ子だった?
天界を追放された、あの嵐の神スサノオ。彼が地上に降りてからの話は、また別の機会にするとして…。
今回は、そのスサノオから数えて6代目の子孫にあたる、ある心優しい神様の物語をしようと思うんだ。
彼の名前は、大穴牟遅神(おおなむぢのかみ)。後の、大国主神(おおくにぬしのかみ)だよ。
彼にはね、八十神(やそがみ)って呼ばれる、たくさんの兄さんたちがいたんだけど、この兄さんたちが、まあ、ひどいイジワルばっかりするんだ。オオナムヂは末っ子なのをいいことに、いつも兄さんたちの巨大な荷物袋を全部持たされて、パシリ扱い。
そんなある日、兄さんたちは因幡(いなば)の国に住む、絶世の美女・八上比売(やがみひめ)に求婚しに行くことにした。もちろん、オオナムヂも荷物持ちとして、トボトボと後をついていく。この時、誰もが、一番みすぼらしい格好をしていた彼が、彼女の心を射止めるなんて、思ってもいなかったんだ。
1. すべては一羽の、泣きうさぎから始まった
彼の優しさが、未来を大きく変えることになる。
兄さんたちに大きく遅れて、オオナムヂが気多(けた)の岬にさしかかった時、一羽のうさぎが泣いているのに出会うんだ。しかも、そのうさぎ、全身の皮を剥がれて、真っ赤な裸ん坊だったんだ。
話を聞くと、うさぎは海のワニザメを騙して、その背中を橋代わりにして渡ろうとしたんだけど、最後に「バーカ、騙されたな!」って言っちゃったせいで、怒ったワニザメに皮を剥がれちゃったんだって。
そこへ通りかかった兄さんたちは、面白がって、「海水を浴びて、風に当たって乾かすといいよ」なんて、デタラメな嘘を教えた。塩水がしみて、皮膚が裂けて、うさぎはもっと苦しむことになっちゃったんだ。
でも、オオナムヂだけは違った。彼はうさぎのそばにしゃがみこんで、優しくこう教えるんだ。
「すぐに真水で体を洗いなさい。そして、ガマの穂の花粉を体に敷き詰めて、その上で寝転がれば、きっと元気になるよ」
言われた通りにすると、うさぎの体はすっかり元通り!
実はこのうさぎ、ただのうさぎじゃなくて、兎神(としん)っていう神様だったんだ。彼はオオナムヂに、こう予言する。
「兄さんたちは、決して八上比売と結ばれることはないでしょう。求婚者にふさわしいのは、心優しいあなた様です」と。
2. モテ期到来!でも、それは死の始まりだった…
うさぎの予言通り、八上比売はイケメンぞろいの兄さんたちを全員フって、荷物持ちのオオナムヂを選ぶんだ。
「私は、あなたと結婚します」と。
さあ、ここからが大変!
嫉妬に狂った兄さんたちの、陰湿な嫌がらせ…というか、もはや**命を狙った攻撃**が始まるんだ。
- 【一回目の死】兄さんたちは、「珍しい赤い猪がいるぞ!」と嘘をつき、真っ赤に焼けた巨大な岩を山の上から転がす。オオナムヂはそれを猪と信じて受け止め、全身大やけどで死んでしまう。
- 【二回目の死】(母の力で生き返った後)兄さんたちは、今度はオオナムヂを森に誘い込み、大木を切り倒してクサビを打ち込み、「この中に入れ」と命令。彼が入った瞬間、クサビを抜いて木を閉じ、圧殺してしまう。
二回も殺されて、二回も母に助けられたオオナムヂ。さすがに母も「もう、ここにはいられないわ」と、彼にこう告げるんだ。
「木の国にいらっしゃる、大屋毘古神(おおやびこのかみ)のところへ逃げなさい。それでもダメなら、根の堅州国(ねのかたすくに)にいらっしゃる、あなたの先祖、スサノオ様を頼るのです」と。
3. ラスボスは、まさかのご先祖様!?スサノオの鬼畜な試練
スサノオの試練を、娘スセリビメの助けで乗り越えていく。
兄たちから逃げ、オオナムヂはついに、ご先祖様であるスサノオが治める国へとたどり着く。
でもね、あのスサノオが、素直に「よく来たな、子孫よ」なんて言うわけないよね。
しかも、オオナムヂは、そこで出会ったスサノオの娘・須勢理毘売(すせりびめ)と、一瞬で恋に落ちてしまうんだ。これにスサノオは、さらに嫉妬!
ここから、スサノオによる、娘の彼氏にふさわしいかどうかを試す、**地獄の婿入りテスト**が始まるんだよ。
- 蛇がいっぱいの部屋で寝ろ!
- ムカデとハチがいっぱいの部屋で寝ろ!
- (娘スセリビメの助けで乗り越えた後)広い野原に火を放ち、その中で燃える鏑矢(かぶらや)を拾ってこい!
絶体絶命のピンチの連続!でも、オオナムヂはスセリビメの愛と、助けてくれたネズミのおかげで、すべての試練を乗り越えるんだ。
すっかり彼を認めた(フリをした)スサノオが、頭のシラミを取ってくれと言う。オオナムヂは、それがムカデだと気づくけど、賢く乗り切る。そして、スサノオが油断して眠った、その瞬間!
オオナムヂはスサノオの髪を柱に結びつけ、巨大な岩で戸を塞ぎ、スサノオが持っていた神の剣と弓矢、そして琴を奪って、スセリビメを背負って国から脱出するんだ!
逃げる途中で琴が鳴り響き、スサノオは目を覚ます。でも、髪が結ばれていて追えない。彼は、遥か遠くのオオナムヂに向かって、大声でこう叫んだ。
「お前が持つその太刀と弓矢で、兄どもを追い払い、大国主(おおくにぬし)となれ!そして、娘を正妻とし、立派な宮殿を建てて住め!この野郎!」
乱暴だけど、これはスサノオなりの、最高のエールだったんだ。
そして、彼は“縁結びの神様”になった
この言葉通り、オオクニヌシは兄さんたちを平定し、出雲の地に、天まで届くような立派な宮殿…今の出雲大社(いずもおおやしろ)の元となる場所を築き、国づくりを進めていく。
たくさんの女神と恋をして、多くの子宝にも恵まれた。そして、何より、うさぎを助けたその優しさで、目に見えない「縁」を結ぶ、偉大な神様として、今でもたくさんの人に慕われているんだ。
いじめられっ子で、二度も殺され、好きな人の父親からは殺されかける…。そんな波乱万丈の人生を乗り越えたからこそ、オオクニ-ヌシは、人の痛みがわかる、最高の“縁結びの神様”になれたのかもしれないね。
さて、こうして地上を治める偉大な王となったオオクニヌシ。でも、この平和は、長くは続かない。今度は、天界の女王・アマテラスが、こう宣言するんだ。
「地上の国は、私の子孫が治めるべきだ」と…。その話は、また次のお楽しみだね!