追放された“元”問題児、地上に降り立つ
ねえ、覚えてるかな?天の岩戸事件のせいで、姉のアマテラスを本気で怒らせて、高天原(天界)から追放されちゃった、あの嵐の神スサノオのこと。
髪も爪も抜かれて、たくさんの罰を受けた彼は、ついに地上…出雲国(いずものくに)の肥河(ひのかわ)のほとりに降り立ったんだ。
天界では、ただ泣き叫んだり、ウンチをしたり、やりたい放題だった彼だけど…。お腹もペコペコだったんだろうね。「腹が減ったなあ…」なんて言いながら川を歩いていると、上流からお箸が一本、流れてきたんだ。
「お、これは上流に人がいるに違いない!」
そう思ったスサノオが川を上っていくと、そこには、美しい娘を真ん中にして、声を上げて泣いている、おじいさんとおばあさんがいたんだ。ここから、彼の運命が、そして日本の神話が、大きく動き出すことになるんだよ。
1. 「娘が…怪物に食べられてしまうのです」涙の訴え
ただのヤンチャ坊主じゃない。彼は、人々の悲しみに耳を傾けた。
「あなた方は誰ですか?なぜ、そんなに泣いているのですか?」
スサノオが尋ねると、おじいさんはこう答えた。「私は、この国の神アシナヅチ。この娘は、クシナダヒメと申します。私たちにはもともと八人の娘がおりましたが、毎年、八岐大蛇(やまたのおろち)という恐ろしい怪物がやってきて、一人、また一人と娘を食べてしまったのです。そして今夜、ついに最後の娘である、このクシナダヒメの番が…」
ひどい話だよね。そのヤマタノオロチっていうのが、とんでもない怪物なんだ。
- 目は、真っ赤なほおずきのよう。
- 一つの体に、八つの頭と、八本の尾を持つ。
- その体には苔や木が生え、大きさは八つの谷と八つの丘を越えるほど巨大。
- 腹は、いつも血でただれて真っ赤。
普通の人間なら、聞いただけで逃げ出すような相手だ。でもね、ここからのスサノオが、めちゃくちゃカッコいいんだ。
彼は、クシナダヒメの美しさに心を奪われ、そして、彼女を守ることを決意する。おじいさんに、こう宣言するんだ。
「もし、その娘さんを私にくださるのなら、私がその怪物を退治してしんぜよう」と。
2. ヒーローは力だけじゃない!知恵で怪物を酔わせる作戦
アシナヅチは、スサノオがあのアマテラスの弟だと知ると、喜んで娘を差し出すことを約束した。
さて、作戦開始だ。スサノオは、ただ力任せに突っ込んでいくようなバカじゃない。彼は、まずクシナダヒメの姿を、歯の多い神聖な櫛に変えて、自分の髪にそっと挿して隠すんだ。彼女の安全を確保したんだね。
そして、アシナヅチ夫婦に、こう命じる。
「何度も何度も醸造した、めちゃくちゃ強いお酒『八塩折之酒(やしおりのさけ)』を造ってください。そして、八つの門を持つ垣根を作り、それぞれの門に、そのお酒をなみなみと注いだ桶を置くのです」
そう、彼の作戦は、大怪物ヤマタノオロチを、まずはお酒でベロンベロンに酔わせてしまうことだったんだ!
3. 決戦!酔いどれ怪物を切り刻め!
知恵で勝利への道筋を作り、勇気で怪物を討つ。
準備が整った頃、ついにヤマタノオロチがやってきた。地響きを立てながら現れた大怪物は、案の定、用意された八つの酒桶を見つける。
そして、八つの頭をそれぞれの桶にズブズブズブ…と突っ込んで、ガブガブとお酒を飲み始めた。その味があまりに美味しかったのか、すっかり飲み干すと、そのままグーグーと、とんでもないイビキをかいて眠ってしまったんだ。
「今だ!」
隠れて様子をうかがっていたスサノオは、持っていた十束の剣(とつかのつるぎ)を抜き放ち、眠っているオロチに襲い掛かる!
八つの頭を、バッサバッサと斬り刻んでいく。その体からは大量の血が流れ出し、肥河は真っ赤な血の川になったという。
そして、真ん中の尻尾を斬りつけた、その時だった。カキン!と、剣の刃が欠けてしまったんだ。
「なんだ?」
不思議に思ったスサノオが、尻尾の中を裂いてみると…中から、一本の、それはそれは見事な太刀が出てきたんだ。これが、後に日本の歴史で最も重要になる三種の神器の一つ、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)、後の**草薙の剣(くさなぎのつるぎ)**だよ。
そして、ヤンチャ坊主は英雄になった
こうして、スサノオはヤマタノオロチを見事に退治し、クシナダヒメを妻として迎えた。
彼は、この素晴らしい剣を、昔の非礼を詫びる印として、姉のアマテラスに献上するんだ。なんだか、すごく大人になったよね。
そして、出雲の須賀(すが)という地に、新婚生活を送るための宮殿を建てた。その時、美しい雲が立ち上るのを見て、彼が詠んだ歌がある。
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
これは、日本で一番最初の和歌だと言われているんだよ。
天界では、ただの乱暴者だったスサノオ。でも、地上に降りて、人々の悲しみを知り、愛する人を守るために戦ったことで、彼は最高の英雄へと生まれ変わったんだ。
そして、このスサノオとクシナダヒメの血筋から、あの心優しい苦労人、“縁結びの神様”オオクニヌシが生まれてくることになる。物語は、こうして繋がっていくんだね。